以前のコラム(相続財産とは?)でご紹介しましたように,相続人は,相続開始の時から,被相続人(亡くなった方)の財産に属した一切の権利義務を承継します。
この被相続人が生前に有していた「一切の権利義務」を相続財産(遺産)といいます。
しかしながら,①すべての相続財産が被相続人の遺産分割の対象となる財産となるわけではありません。
また,②相続財産ではないものの,遺産分割の対象とすべきかが問題となるものもあります。
そのため,相続財産と遺産分割の対象となる財産の範囲は一致しません。
相続財産のうち遺産分割の対象にならないもの(上記①)として特に問題になりやすいのが,可分債権です。
可分債権とは,金銭債権(売買の代金支払請求権など。なお,被相続人が生前有していた現金は債権ではなく,遺産分割の対象とされています。)のような分割できる債権のことをいいます。
可分債権については,相続が開始した時点で,遺産分割手続を経ないで法律上当然に(自動的に)分割されることになります。その結果,各相続人は,遺産分割を行わなくても,債務者に対して,可分債権のうち自らの相続分に相当する部分を請求できます。
もっとも,可分債権の中にも当然に分割されず,遺産分割と対象となる財産が存在します。それが預貯金です。
預貯金
については,かつては他の可分債権と同様に遺産分割の対象とはならないものとして扱われてきました。そのため,相続人は,金融機関に対し,各自の相続分に応じた預貯金の払い戻しを受けることができるものとされていました。
もっとも,多くの金融機関は,上記に反して,遺産分割協議書や相続人全員の同意書の提出がない限り被相続人の預貯金の払い戻しに応じない運用を行ってきました。
そんな中,最高裁判所は,平成28年12月19日の決定で,「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる」と判示しました。
※ 決定全文については,http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/354/086354_hanrei.pdf をご参照下さい。
続けて,最高裁判所は,平成29年4月6日の判決でも「共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。」と判示しました。
※ 判決全文ついては,http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/670/086670_hanrei.pdfをご参照下さい。
これらの最高裁判所の判例から,預貯金は相続開始と同時に当然に(自動的に)相続分に応じて分割されるものではなく,遺産分割の対象となる財産として扱われることが明らかとなりました。